ログイン「本当にっ……自由に、なったのですね」 声が震え、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。 こんな未来が訪れるなんて、夢にも思わなかった。 嬉しくて、胸がいっぱいで、涙が止まらない。 差し出されたルシアンのハンカチを受け取り、エマは何度も瞬きをしながら涙を拭った。 「エマ。貴方に、この場で伝えたいことがあります」 「……はい」 顔を上げると、ルシアンが一歩前に出て、静かにエマの前へ跪いた。 「ぇ……ルシアン様?」 戸惑うエマの左手を取り、その甲へ、口づけが落とされる。 熱が一気に頬へ集まり、エマの心臓は早鐘を打った。 見上げてくる赤い瞳は、いつもよりもずっと真剣で、揺るぎない。 「エマ……初めてお会いした日から、貴方に惹かれていました」 ルシアンの澄んだ声が、甘く耳に響いた。 「可憐な花のように美しい貴方は、とても魅力的で、もっと近づきたいと思ったのです」 「ルシアン様……っ」 「貴方には婚約者がいたため、想いを告げることも出来ず……胸の内に秘めるしかありませんでした」 「っ……」 「ですが、思いがけず機会がめぐり……私の功績が認められ、皇太子殿下のお許しを頂くことができたのです」 とうとうと語られる言葉は、ルシアンの片思いを告白するものだ。 それは、王太子や皇太子の前で語るための言葉だった。 ルシアンがエマを欲する余り、手柄を立てたのだという筋書きで、二人の間には、何もなかったのだと示すためのもの。 けれどエマは、ルシアンの好意を知っていた。 初めのうちは、本気だと信じられなかったけど。 (でも、何度も、ルシアン様に愛でられて……) エマは、愛される喜びを知った。 それでも、最後の一線を越えたことはない。 エマはルシアンの意図を察して、微笑んだ。 「エマ。貴方を愛しています。これから先も、何があろうと、貴方を守り続けると誓います」 ルシアン
後見権。それは、聖樹を管理し、処遇を決定する権限だ。 言い換えれば、聖樹の所有権である。 (そ、そんな……っ) エマは体を震わせた。 ランダリエ王家が持つエマの所有権を、皇太子に渡すと言うのだ。 (やだっ……せっかく、王子から自由になれたのにっ!) 顔を強ばらせるエマに、王太子が柔らかな眼差しを向ける。 「心配せずともよい。エマヌエーレ」 「ぇ……?」 問い返すよりも早く、皇太子がクロエから受け取った書面を読み上げた。 「聖樹エマヌエーレの後見権を、皇太子ティエリーが譲り受ける。以後、エマヌエーレの処遇と保護は、すべて新たな後見人の責任において行うものとする」 すでに署名と印章が入った書類が、中央の台へと置かれる。 エマは、反射的に一歩後ずさった。 すると、そっと後ろから抱きしめられる。 「大丈夫です、エマ」 「ルシアン様……?」 振り返ると、赤い瞳がまっすぐにこちらを見つめていた。 迷いのない、静かな眼差しだった。 その手の温かさに、こわばっていた体から、少しずつ力が抜けていく。 (……大丈夫、なんだよね?) 彼が、エマを傷つけるはずがない。 エマは唇を噛みしめ、成り行きを見守ることにした。 「さて」 皇太子が楽しげに声を弾ませる。 「此度の王家審問において、最も力を尽くした我が部下を、ここで称えるとしよう」 その視線が、まっすぐにルシアンへ向けられた。 「ルシアン・デイモンド伯」 「はい、ティエリー殿下」 「褒美を与える。聖樹エマヌエーレを、貴殿に下賜(かし)する」 「……えっ?」 エマは息を呑み、思わずルシアンを見上げた。 (僕が……ルシアン様のものに?) ずっと、願っていたことだった。 けれど、あまりにも突然で、喜びよりも驚きで狼狽える。 「エマ」 ルシアンが
「っ……大聖花様も、どうかお健やかにお過ごしください。幼き頃より、今日まで見守ってくださったこと、心より感謝いたします……女神イーリスのご加護がありますように」 エマの眦から、涙がぽろっとこぼれ落ちる。 (大好きだった。いつも、優しくて、温かくて) イーリス大神殿で過ごした日々のことが、頭を駆け巡る。 聖樹を平等に慈しみ、愛してくださった方だ。幼いエマが神殿に馴染むまで、優しく寄り添ってくれた。十年間、ずっと温かく見守ってくださった。 その恩は、一生忘れない。 大聖花は、瞳を潤ませながら、深く一礼する。 そして、控えていた神官とともに、静かに退出した。 気がつくと、その場に残っていたのは、四人だけになっていた。 エマの他には、ナタリナ、ルシアン、王太子だ。 「エマヌエーレ。こちらへ」 「はい」 王太子に呼ばれ、エマは中央の台へと進む。 背後にはナタリナが控え、隣にはルシアンが並んでくれていた。その存在が、心強い。 と、そのときだった。 「やっと終わったな。待ちくたびれたぞ」 聞き覚えのある声に、エマはハッとして振り返る。 そこに立っていたのは、帝国の皇太子、ティエリーだった。 紫色を基調とした簡素なジャケットに、藍色のマント。そこには皇族を象徴する獅子の紋章があしらわれている。 「こ、皇太子殿下っ!?」 エマは慌てて、両手を胸の前で重ねて、軽く膝を折った。ナタリナもそれに倣う。 動揺しながらも、なんとか挨拶をした。 「帝国の若き太陽、皇太子殿下にご挨拶いたします」 「うむ。そうかしこまらずとも良い」 以前に天耀宮で会ったときと変わらない、気安い口調だった。 (どうして、皇太子殿下がここに?) 戸惑うエマの耳元で、ルシアンが小声で囁く。 「ティエリー様は、二階席で傍聴されていました」 「えっ?」 思
「……エマ。泣かないでください」 不意に、両手を優しく包まれる。 顔を上げると、ルシアンの温かい瞳が、エマを見つめていた。 ルシアンはエマの前に跪き、こぼれる涙を指でぬぐう。 「ルシアン、さま?」 「エマ。貴方のせいではありません。辛い巡り合わせであったことは事実ですが、貴方は今も、清らかで尊い聖樹です」 「……っ」 「貴方が深く傷ついていることは、知っています。その傷を、私が癒やして差し上げたいのです」 「癒やす……?」 「ええ。どのような冒涜も、貴方自身を穢すことはできない。貴方はどこにいても、光り輝いている。私の、愛しい女神」 「っ、ルシアン様っ」 「さあ、どうか泣き止んで。まだ、大事な話が残っていますから」 濡れた頬を、ハンカチで拭ってくれる。 エマがコクリと頷くと、ルシアンが優しく微笑んだ。 「……エマヌエーレ様」 懐かしい声に、ハッと振り向く。 すぐ側に、大聖花が立っていた。 「大聖花様っ!?」 「退出の前に、王太子殿下にお許しを頂きました」 その言葉に周りを見渡すと、すでに国王夫妻の姿はなかった。ユリックも、書記官たちも、騎士も、すべて審問の場から退出している。 ルシアンは場所を譲り、大聖花がエマの正面に立った。 エマも慌てて椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。 「大聖花様……ご無沙汰しております」 「ええ。貴方が神殿を離れてから、まだ二年と経っておりませんね」 大聖花は穏やかに微笑み、エマを見つめる。 「つい先頃、蕾をつけ、これから花開こうという折に……その身に、かように過酷な試練が課せられるとは」 いたわるように、大聖花の手がエマの頭におかれる。神殿に来たばかりの頃、心細くて泣いていたエマを、何度もそうして慰めてくれた手だった。 (大聖花様っ……) 大聖花は優しく頭を撫でながら、静かに語る。 「これもまた、女神イーリスの御
王太子は次に、ドレイクの処分を下した。 「ドレイクは、聖樹冒涜罪の主犯として認定されている。すべての罪状を合わせ……ドレイクを極刑とする」 その決定に、異を唱える者はいなかった。 弁明する機会もないまま極刑となったドレイクを、可哀想だと思う者も、この場にはいないはずだ。 (あの二人が、極刑……) 下された裁きを、エマは噛みしめる。 (もう二度と……あの人たちの顔を、見なくて済む……) これまでの苦しみが脳裏を駆け巡り、じわりと涙が浮かぶ。 涙があふれる前に、エマは静かに目を閉じた。 「エマ様」 ナタリナの温かい手が、肩におかれる。 後ろに立っているナタリナもまた、この処分に感極まっているようだ。 「もう、エマ様を脅かす者はおりませんっ」 「うん……っ」 けれど、湧き上がる喜びの中に、苦いものが混じる。 まだ続く審議の中で、それを吐き出すわけにはいかない。 エマは歯を食いしばるようにして、審議を最後まで見届けた。 「次、ジゼル側妃の処分を言い渡す」 王太子は冷淡な口調で告げる。 「ジゼル側妃。そなたは、王族身分詐称罪および王統冒涜罪の主犯として、側妃の身分を剥奪し、全財産を没収する。第一級大罪に相当し、本来であれば極刑は免れぬが……」 王太子はそこで言葉を切り、国王夫妻へ視線を向けた。 「国王陛下ならびに王妃殿下の嘆願を受け、命までは奪わぬものとする」 だが、次に言い渡された処分は、残酷なものだった。 「ただし、貴族の身分を剥奪。以後、平民として、イーリス大神殿に預ける。下働きとして、終身の贖罪奉仕を命ずる」 それは、ジゼルにとって絶望的な処分だっただろう。 平民を蔑み続けた彼女は、一生を下働きとして過ごすのだ。死よりも耐えがたい屈辱であることは、想像に難くなかった。 「い、いや……いやぁぁーーっ!!」 ジゼルは首を振り、悲鳴を上げた。 「陛下
ジゼル側妃が悲鳴のような声を上げ、前へ出ようとするが、彼女もまた騎士に制される。 「放せ! こんなこと、許されるはずがない!」 ノワジエール侯爵も怒鳴り散らすが、その声には明らかな動揺が滲んでいた。 (え……?) エマの胸に、疑念が広がる。 (もしかして……?) 騎士がナイフを手に取り、レオナールの手を水晶盤の上へとかざす。 「やめろ! 放せ! やめろおおっ!!」 レオナールの悲鳴とともに、血が数滴、水晶盤へ落ちた。 だが、何も起こらなかった。 「……ッ!?」 エマは思わず息を呑む。 水晶盤は沈黙したまま、ただ透明な水面を揺らしていた。 (うそっ!?) 反応がない。 それは、ベータであることを意味していた。 「レオナール様は、ベータでございます」 大聖花は、はっきりと宣告する。 ランダリエ王国において、王族として認められるのはアルファのみ。 その事実を、知らぬ者はいない。 「ベータである以上、レオナール様を王族として認めることはできません」 大聖花の言葉に、エマは呆然となった。 目の前では、レオナールが首を振り続けている。顔は青ざめ、目は虚ろだった。 「そんな……そんなはずないっ! オレは、アルファだ!」 「陰謀よ!」 ジゼル側妃が甲高く叫ぶ。 「王太子と神殿が手を組んで、私のレオナールを陥れようとしているのよ!」 「ジゼル側妃」 神官が低い声で制する。 「その発言は、イーリス大神殿への冒涜と見なします」 「我らは女神イーリスに仕える者」 大聖花が、凜とした声で続けた。 「相手がどのような方であろうと、権威に屈することはありません。イーリス大神殿は、今後一切、レオナール様を王族として扱うことはございません」 大聖花の宣言に、ジゼル側妃が蒼白になった。侯爵も押し黙っている。 王太
「おい、見てみろ。メス犬がさっきからよだれを垂らしてるぞ」 「レオナール様へ媚びているのでしょう」 「浅ましいメス犬だ」 「仰るとおりです。レオナール様」 従者はレオナールのグラスにワインを注ぎ、給仕を済ませてから、再びベッドへ近づいた。 エマを見下ろし、蛇のように醜悪な笑みを浮かべる。 「レオナール様。このメス犬が、レオナール様への無礼に許しを請うまで、じっくり躾けましょう」 「コイツは物覚えが悪いからな。しっかり頼む
恥ずかしがるエマに、ルシアンは宥めるように微笑む。 ルシアンは、善意から静香石を確認すると言ってくれてるのだ。いつまでも恥ずかしがっている場合ではない。「あ、あの……う、後ろを向いててくださいっ」 上ずった声でお願いすると、ルシアンが背中を向けてくれる。 その間に、エマは欅の幹に片手をついて、白い法衣の裾をまくり上げた。 チラッと後ろを振り向き、ルシアンの背中が見えているのを確認してから、膝丈の肌着(シュミーズ)を掴
カァッと頬を赤く染めて、エマは視線を逸らした。 「フフ。またいずれ、その機会があれば」 「っ! 本当ですか!」 バッと勢いよく振り返る。 ルシアンは驚いたように目を丸くした。 「ぁ……す、すみませんっ!」 エマは耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆った。 (バカバカ! ただの社交辞令なのに!) 本気にするなんて、恥ずかしすぎる。 エマが羞恥に黙り込むと、ルシアンがクスクスと笑った。 「可愛いですね、
だがエマは、もう従者など気にする余裕がなくなっていた。 「ぁぁんっ、はぁぁっ、ひゃぁぁッ!」 逃れようと悶えれば、敏感になった肌にシーツが擦れ、その刺激だけでエマの昂ぶりが頭をもたげる。 蕾からは愛液があふれて、収縮を始めた。 淫らに喘ぐエマを、従者は蔑むように見下ろす。 「アァァッ! 熱いっ、ンンッ……いやぁぁッ」 「どんな気分だ? 汚らわしいオメガめ」 「はぁぁんッ、んぁッ、ぁぁ」 「みっともなく腰を揺